□海に行こう 怒涛のスイカ割り編1□



正午になり、三人は海から上がって来た。そろそろ昼食の時間である。

 彼等はまるで竜宮城のような造りをした海の家へと向かった。流石は藍家センス、一夏のみの海の家と言えども手抜き無くゴージャスである。

「珠翠は何にするんだい?」

 客で賑わう店で席に着き、魁斗はメニューを見せながら珠翠に食べたいものを尋ねた。
海の幸・山の幸・龍牙塩湖の塩を使ったスイーツなど、とても海の家とは思えない豊富なメニューを取り揃えてある。

「俺、骨付きカル」
「お前に聞いてないよ。」

 待ち切れずに自分がオーダーする料理を申告しようとした北斗を、またもや魁斗がブッタ斬る。それはまるで予め北斗の行動を読んでいた様な迅速さだった。

「何だよ魁斗ぉお~~!くそっ、やさぐれて昼間っから呑んだくれてやる・・!!」

「ふざけるな!!お前、自分の酒グセの悪さを自覚しろ!この絡み酒が!!少しでも呑んだらコロス!!」

 今にも「お姉さん、生ひとつ!」とか言い出しそうな北斗に魁斗は厳重にクギを刺した。

「うぅ~んと・・邵可さま、私、翡翠餃子の海鮮スープがいいです。」

 メニューを見ていた珠翠は、ややあって野菜を練りこんだ綺麗な緑色の水餃子を選んだ。いかにも女の子が好みそうな料理だ。

「あとは?それだけで足りる?デザートとかはいいのかい?マンゴープリンとか美味しそうだよ?」

 遠慮がちな珠翠に、魁斗は女の子が好きそうなデザートを勧める。

「ちょっと待て、二人とも。」

 だがそんな魁斗の兄心を颯爽と横合いから遮った男が居た。他の誰でもない、北斗である。
カッと魁斗の目が物騒に見開かれたが、無敵のKYキング・北斗は全く気にしない。

「この後、スイカを二玉食べなきゃならないんだ。デザートはホドホドにしろよ?☆」

 ―――出た、スイカ隊長。

 魁斗は内心でチッと舌打ちした。北斗のスイカ割りへのおかしな執念にウンザリする。
今頃浜辺に放置された北斗のスイカは、砂浜の熱でさぞや温まっている事だろう。

到着してから今まで、このままスイカの事を北斗が忘れてくれる事を願っていたが、鳥頭のハズの北斗はどうしてかスイカの事だけは忘れなかった。むしろスイカの事で頭の中がイッパイと言った感じである。自分の頭とスイカを交換しても分からないんじゃないだろうか?
これもある意味変態と言えよう。

「すみませーん。翡翠餃子のスープと海鮮焼きそばを一つずつお願いします。(゜Д゜)」

「ちょ、待、あと骨付きカルビの生姜焼き・ライス特盛りも!!∑(;゚□゚)」

 北斗の存在を無いものとするようにサッサと自分達の分だけオーダーする魁斗に、慌てて北斗も自分の分を追加注文した。

「ふざけんなよ魁斗オォ!(゚Д゚#)」

 注文するのが遅れたら一人だけ料理が来るのが遅くなる可能性がある。それを思い、北斗は本気で冷や汗を流した。魁斗は先に来た自分の食事を済ませたら珠翠を連れてさっさと行ってしまうに違いないのだ。
テーブルに一人取り残される事ほど虚しい事はない。

 しかしそんな憂き目を見る事無く、多少料理が運ばれて来るのが遅れたものの、早食いの北斗は他の二人とほぼ同時に食べ終わり満足の行く食事タイムを過ごしたのだった。

 ・・そして、とうとうその時はやって来た。本日のメインイベントである。
フッフッフッ、と北斗の口から堪え切れない忍び笑いが漏れた。

『スイカをカッチョ良く割って、このビーチのヒーローになるんだ・・!』

 スイカを割る為の棒は、ボートのオールを拝借して調達済み。何故オールなのかと言うと、当初北斗は棒を此処へ来るまでの〈道無き道〉で調達する予定だった。しかし魁斗がスイカを一つも持ってくれなかった為に両脇に抱える事となり、棒を持つ事が出来なかったのだ。

その事をずっと気に掛けていた北斗は、珠翠と魁斗が貝殻拾いをしている間に代用品を調達に走っていたのであった。

 そんな努力も全てはこの一瞬の為。
北斗は陽炎に揺らめくスイカを見遣った。
一体何が始まるのかと珠翠もじっと北斗を見詰めている。

「珠翠、いいか。これは目隠しをした上でスイカを割るってゲームだ。視界を塞がれて何処にスイカがあるか分からない状態で、仲間達のナビと己の感だけを頼りに棒を振り下ろす。」

「え?でも目隠ししたって何処に何があるかは分かりますよね?」

 北斗の説明を聞いた珠翠はきょとんとする。・・生まれてすぐに兇手としての訓練を受けて来た彼女には、何が普通で何が特殊なのかがまだ良く分かっていなかった。

「う・・まぁ、それを言われると身もフタもないんだけどよ。(汗)」

「御託はいいからさっさと割りなよ。(-_-)」

 参加する気ゼロな魁斗はやる気なさそうに(実際無い)北斗を促した。早く終わらせて北斗の頭の中から鬱陶しい事この上ないスイカ熱を追い出したい。

「何言ってんだ。スイカは二つあんだろ?真打ちは最後に登場するもんだぜ+という訳でやってみろ、珠翠♪」

 そう言うと、北斗は珠翠に棒代わりの重いオールを握らせた。

『ちょっ・・馬鹿北斗!小さな珠翠がこんなオール振り下ろしてスイカ叩き割ったらオオゴトだろうが!!(゚Д゚#)』

「痛てててててて∑(;><)」

 北斗のその行動に慌てた魁斗が北斗の耳をギュウギュウ引っ張り、小声で罵声を浴びせた。

 彩雲国の男子平均よりズバ抜けて背の高い北斗はビーチでも目立っており、こんなショボいスイカ割りにもそれなりにギャラリーが集まり始めていた。

そんな公衆の面前で幼い少女が大の大人でも重いボートのオールを軽々と振り上げてスイカを割ったら大騒ぎになってしまう。もしそれが縹家の耳にでも届いたら――――!

『この馬鹿!もっと考えて行動しろ!(゚Д゚#)』

「・・悪りぃ・・。」

 これには素直に北斗も反省し、そっと珠翠からオールを貰う。

「ごめんな珠翠。こんな重いものお前には持てなかったよな。」

「??」

 訳が分からない珠翠は首を傾げたが、周りのギャラリーは『当たり前だろー』などと北斗を囃し立てた。

「と言う訳で行け、魁斗。」

「はあ?」

 珠翠の代わりにオールを握らされた魁斗は片眉を跳ね上げたが、『頑張れよ、ボウズ!』などとギャラリーに盛り上がられては引くに引けなかった。

「・・・・。」

 魁斗はしぶしぶオールの持ち手を握って定位置につく。

「よし、んじゃぁ目隠しだな☆」

 北斗はそう言って着替えなどを入れた風呂敷包みを掻き回した。確か目隠し用のハチマキもここに一緒に入れた筈だ―――――・・筈だった。

『・・・・無い・・。(゜Д゜||)』

 しかし何処をどう探してもハチマキは見当たらなかった。・・どうやらスイカや棒にばかりかまけて家に置いて来てしまったようだ。

『―――マズイ!』

 この暑さだというのに北斗の背中を冷たい汗が伝い落ちる。ギャラリーも今か今かと北斗が目隠しを持って戻って来るのを待っている。しかし無いものは無い。

・・くそ、自分は何の為に大変な思いをしてスイカを抱えてここまで来たのか・・!
北斗は己のウカツさを呪った。だがそれだけの事で中止になどしたくなかった。

「!これは・・!!」

 何か・・何か代わりになる物はないかと荷物を混ぜ返していた北斗の手に、白い布が触れた。目隠しするのに十分な長さもある。

『行ける!!!』

 北斗の頭の中に稲妻が走った。

「待たせたな、魁斗!じゃあ目隠しするから前向いてろ♪」 

「ったく、今まで何やってたんだ。」

 駆け戻った北斗に文句を言いながらも魁斗は素直に前を向いた。一刻も早くこのしょーもないイベントを終わりにしたかったのである。

 そんな魁斗の視界が、北斗の手によって白い布で覆われた。

「よし、いいぞ魁斗☆」

「・・・やれやれ」

 北斗の合図で魁斗は歩みを進めた。目隠しをされていようと何処にスイカがあるかは気配と感で分かる。例え視力を失ったとしても日常生活に支障を来たす事が無い程に。 

 魁斗がスイカに向かって真っ直ぐに歩いていると、ギャラリーがざわめき出した。

『しまった。すこしフラフラしながら行かないと駄目か?』

 まるで目隠しなどしてないように迷い無くスイカに向かって行く姿にギャラリーがザワザワしている。――――魁斗はそう思っていた。しかし何やら様子がおかしい。
それに先程から北斗の体臭がやけに近距離から嗅ぎ取れるのは何故だろう。

・・・酷く嫌な予感がした・・。

「オイ、あの目隠しってさぁ・・」

 魁斗の鋭い聴覚は、ギャラリーのその呟きを聞き逃さなかった。
魁斗は弾かれたように目隠しを毟り取る。

「!!!!!!!!!」

 魁斗は自分の手の中にあるその目隠しを見るや否や、声にならない絶叫を上げた。

皆さんはもうお気付きだろう。・・・そう、その目隠しは北斗のフンドシであった。しかも水着に着替える前まで身に着けていた使用済みの物である。臭うハズだ。流石の魁斗もフンドシだけに憤死寸前である。

「・・・・・・。」

 ボバーン!と魁斗の身体からドス黒いオーラが火山のように噴き上る。余りにも怒りが突き抜けてしまうと、人間、怒鳴る事も出来ないようだ。

魁斗は無言で持っていたオールを両手で天高く掲げると、ハエ叩き宜しく電光石火の勢いで振り下ろした。

―――パァン!

 その瞬間、風船が割れるような乾いた破裂音が響いてスイカが消滅する。

「えっ?」

「何だ?」

 ギャラリーも一体何が起こったのか分からなかった。細腕の少年がオールを振り下ろしたらその下にあったスイカが消え失せたのである。まるでマジックだ。彼が振り下ろしたのはオールではなく、魔法のステッキだったのか。

「スゲー!!」
「ただのスイカ割りかと思ったらどんなイリュージョンだよ!?」

 だが次の瞬間、我に返ったギャラリーからやんややんやの拍手喝采が巻き起こる。

「こんなマジック見た事無い!!」
「一体どんな仕掛けなんだ・・!?」

 ギャラリーは目の前で起こったマジックの仕掛けを見破ろうと砂浜やオールに目を凝らす。
・・だが魁斗のマジックにはタネも仕掛けも無かった。文字通りスイカを種一粒残さず粉砕し、消し去ったのである。

―――パン!!

 次いで魁斗は、怒りに任せて北斗が割る筈だったスタンバイ中のスイカをも粉砕した。

「うわ―――ッッ!!∑(;゚□゚)俺のスイカがァア!!何すんだ魁斗ォオ!!!」

 俺の栄光が!夏のヒーローが・・!!
夏のビーチを自分のものにし損ねた北斗は魁斗に向かって腰を落し、戦闘体勢を取った。

「魁斗!お前、やっちゃいけない事をやったなァ!!」

 ・・昨日の夜から自分がどんなにスイカ割りを楽しみにしていたか。出発前、朝も暗い内から知り合いの快諾を得て、その畑からスイカを収穫して来たのだ。そして重いスイカを二玉も両腕に抱えて道無き道を駆け抜けたあの労苦。それを一瞬で魁斗は叩き潰したのである。

「上等だぜゴルァ!掛かって来いよォ!!(゚Д゚#)」

「はァ?お僕に勝てると本気で思ってるのか?」

 怒り心頭の魁斗も、人前という事も忘れて本気モード全開だ。・・・まぁ、他人の使用済みフンドシを顔に巻かれ、その姿を公衆の晒し者にされた挙句逆ギレされた事を思えば仕方の無い事である。大人びていてもまだまだ青かった。

「どっち道、この後お前を締める予定だったんだ。丁度いい。この場で締めた後、霄太師の五十年物のフンドシをグルグル顔に撒き付けて外せないようにしたまま十年くらい放置してやる!チーズの如く濃厚で芳醇な匂いだと専らの噂だよ?食い意地の張ったお前には寧ろご褒美になっちゃうかな?」 

 ・・そのまま顔に巻き付けた白フンに〈ともだち〉のマークでも描けば〈20世●少年〉にも出演出来そうだ。

「ヒューヒュー♪いいぞ少年!そんな図体がデカイだけの男、こてんぱんにしちまえよ!!」

「そんな細っこいのに負けたら恥ずかしいぞ!!いっそそのまま押し倒して泣かしちまえvv」

 スイカ割り→マジック→格闘技と次々と変化する目の離せないショーにギャラリーもすっかりノリノリのハイテンションだ。人の輪の中央で、息をも吐かせぬ激しい武術の応酬を繰り広げる二人に人々の視線は釘付けである。

・・この時、二人は暗器を何一つ携帯していなかった。そうなれば拳や蹴りを繰り出しての肉弾戦である。実力伯仲の闘いに、ギャラリーの間で賭け金まで飛び交い始める始末。こうなってしまったら最早誰にも止められない。





 

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